西洋の自死 ダグラス・マレー 東洋経済
クリスチャンとプロテスタント、あるいは正教といった宗派間の激しい争いや民族間や領土を巡る争いはあったものの、それに懲りた所為か、欧州ではもういがみ合うのをやめて、それぞれの違いを理解し合った上で統合しようではないか―――というEU連合の思想のような理想主義が台頭しつつあったのだが―――その理想主義的な考え方にイスラム教まで巻き込もうとした試みは、大本のEU統合という理想さえも崩壊させかねない勢いになりつつある。
それは、イスラム教には基本的な考え方として他宗教との共存という考え方は薄く、その理想とする社会は、世界をイスラムで統一することにあるからだと著者はいう。
キリスト教の理想である「宥和」が、イスラムの理想である「イスラムによる統一」と上手くいくわけもない！というのが、現在欧州で起きている「西洋の自死」ともいえるヨーロッパ文化の衰退であり、反EUの地鳴りであるというのだ。
最初は労働力、しかも下層労働力の不足を補うためにと入れたイスラム教徒だが、仕事を終えたら帰国すると思った彼等だが、それぞれの国に棲みつき、しかも異様な速度で子孫を作って増殖していきしかもイスラム教の教え通り、その地をイスラムで占領しようと言う挙に出ている結果、西洋は自ら選んで自死への道を歩んでいる―――と著者はいう。
イスラムでは異教徒に対するレイプは罪にならないとされていることで、欧州女性に対するイスラムの若者によるレイプ事件が頻発しているが、それを告発することは、（人種差別主義者）のレッテルを貼られかねないとして、だれも告発しようとしないし当局さえレイプ事件を隠蔽しようとしている―――といった具体例の指摘を始め、欧州人のこのような怠慢こそが欧州の自死を早めている―――という主張には驚かされた。
日本でも外国人労働者の受け入れが解禁されたが、医療保険や生活保護の不正利用などの問題は早くも起き始めている。
そういった福祉のただ乗りや、過剰なまでの移民に対する優遇策が、氷山の一角だと放置してきたツケで今やとりかえしのつかない状況になっている欧州の事例を本書で知るにつれ、日本もそう長い間、安閑としていられなくなるのではないかと危惧する。
（18年12月発行）