国際政治 高坂正尭 中公新書
服部龍二の「高坂正尭」を読んであらためて高坂の著作を読んでみようと思い、いささか古いが彼の初期の論考集ともいえる本書を手にとったのだが、初版の発効が66年というから今から半世紀以上前だが、進歩的文化人と呼ばれる左がかった論客全盛のこの時代に異彩を放った高坂の論陣にあらためて感心させられる部分が多かった。
実際、当時は日米安保体制に対する反対勢力が進歩的といわれ、吉田や岸、佐藤といった政治家を戦争の残滓をかかえた亡霊のように論じればよい、といった風潮が優勢の中で、安保体制を容認し、勢力均衡の中に日本の確固たる立ち位置を求め、時には政治の現場で歴代首相のブレーンを務めるなどの活躍をした高坂が、それ以降の日本の国際的な立ち位置を確立させる動きの一翼を担ったことは間違いないといってよいだろう。
半世紀前の政治状況と現在のそれとではまるで違っているが、高坂が説いたあるべき日本の国際的立ち位置は、根源的には全く変わっていない。それでいながら高坂に代わる論客がいない今の状況は、いささか心もとない気がする。
（66年8月発行）