箱の中の天皇 赤坂真理 河出書房新社
日本国憲法は前文と11章から成るが、その第一章（第一条から第八条まで）は、天皇についての規定である。
民主憲法といわれる憲法がまず世襲制の「天皇」についての規定から始まるというのもなんだか変だし、「象徴」と訳された天皇の役割は、占領軍が作った原文では「Symbol」であったことも何だか変だ。（シンボル？ってなんだ？）
そもそも日本国憲法が占領軍による押しつけだったのか、それともある程度日本国民の意思が反映された物なのかどうかという根本的な議論をはじめ、戦争放棄の規定をやら三権の機能等々について憲法論議は尽きないし、憲法改正を巡っては中身をともなわない「憲法改正推進」や「憲法を守れ」のシュプレヒコールの掛け合いだけが盛んだが、第一章「天皇」についての論議は全くと言ってよいほど聞かない。
なぜなのだろう？この疑問をテーマにした著者の目の付け所は中々面白いし、考えさせられる。
ある種の幻想小説の手法で書かれるこの作品の中では、つい最近退位した平成天皇や、マッカーサーが登場して摩訶不思議な日本の天皇とは一体何なのかを語る。共に、憲法に定められた「天皇」という規定に対して、どう考え、どう行動してきたかを語るのだが、彼等自身にとっても良くわからない存在であるという。
膨大な演算の後に答えを導き出すAIの不気味さの原因の一つは、なぜこのような答えが導かれるのか？という演算の中身がブラックボックス化されてしまっていることだが、途中の演算の過程が分からなくても得られた答えがどうも正しいようだ、と感じる何とも言えない不安感と、この「箱の中」がどうなっているのか分からないが、そこに納められている「天皇」という存在の不安感とは何だか一致するようにも感じられる―――というのが本書を読んで得られる感覚だ。
なんとも考えさせられる一冊だった。
（19年2月発行）