ほどなく、お別れです 長月天音 小学館
誕生や結婚といった一世一代のイベントの一つであるにも関わらず主人公本人が不在の下に行われるのが葬儀である。
東京スカイツリーの近くにある「坂東会館」という葬儀場でアルバイトをしている大学生の清水美空を主人公に、元この坂東会館に勤めていたが今は、フリーランスの葬祭コーディネーターである漆原、その漆原の大学同級生であり、死者の「霊」が見えるという特殊な能力のある僧侶の里見の繰り広げるお葬式エピソードの物語だ。
実は、美空は生まれる直前に事故で亡くなった美鳥という姉がいた。美鳥は、美空のことを心配してかいつも彼女の側にいて守ってくれているのだが、美空は、彼女にだけ見える美鳥のことを人に話したことはなかったのだが―――里見にそのことを言い当てられてから、漆原は二人のその能力をいかして二人と共に、「訳アリ」の葬儀を取り仕切るようになる。
心ならずも死出の旅路に出た霊と、愛する人を失って諦めきれない遺族とを結ぶ場としての葬儀―――という小説だからこそできる現実と空想の入り混じった設定が紡ぎ出す物語は、なんとも感動的である。
（18年12月発行）