幸福の増税論 井出英策 岩波新書
支払う税金は少ない程、歓迎するが、一方ではより多くの社会給付を要求する-----どう考えてそんな要求にこたえ続けられる国家財政など成り立ちえないはずだが、どこの国でも民主主義政権に突きつけられる要求であり、それにこたえ続けて財政がおかしくなってしまい破産寸前に追い込まれてしまった国や、もはや綱渡り状態になりつつある国ばかりの国がごまんとある。
税に対する不満というのは突き詰めたところ、低負担、高補償を求める国民をいかに納得させるかにかかっているが、歴史的に見てもこれを成し遂げた国も政権もないというのが実情だ。要するに魔法はない！というのが本当のところなのだが―――。
名首相としての評価も高かったサッチャー は、収入に関わらず一人頭幾らという一律の税制である「人頭税」を導入したことで失脚してしまったが、逆に1920年代のアメリカでは、金持にはなんと最高限界税率91％という極端な累進税制をとったことで、不況を長引かせた―――という悲惨な歴史もある。
いや、まさに税制に関してはこれはという理想の税制などあり得ないと覚悟すべきなのかもしれない。
低負担、高福祉が叫ばれる今、著者が敢えて提案する「増税論」には、「またか〜」の思いがない訳ではないが、「減税、高福祉！」ばかりが言われる中、昔から「増税」による「高福祉」という理想論が、繰り返し言われ、また試された例もあるのだよ、ということを思いだしてみるのも一興かもしれない。
（18年11月発行）