単純な脳、複雑な「私」 池谷裕二 講談社
脳科学のライターとして活躍している著者が高校生を相手に対話形式で行った脳についての講義だが、脳の不思議についての話は分かり易く確かに面白い。
我々の思考や行動は全て脳という中枢によってシステマチックに支配されていると思い勝ちだが、多くの脳の実験結果によって必ずしもそうではないことがしめされているという。
人の行動や思考のほとんどは、実は無意識によって支配されており、例えばよくある「ひらめき」といったものも、実は、後から考えたことをその理由だと思い込んでいるだけ―――すなわち、因果関係を逆に捉えてしまっている脳による錯覚なのではないかという指摘などは特に面白いと思う。
又、その「無意識」なるものも、結果的には事前に判別したものを、それを判別したという意識を持たなかっただけである―――という指摘なども、そういわれてみれば、そうかなぁ〜と思えなくもないだけに―――騙されたような気もするが―――説得力がある。
いずれにせよ、脳神経細胞は1000億個あり、それぞれが1万個のシナプスをもっていてそれらが、複雑多岐に絡み合って電気を発生させて人間の脳活動が行われているというのだから、脳の仕組みが解明されるなどということは、宇宙の謎が全て解明される以上にあり得ないことと言えるような気もする。
(13年9月発行)