恐怖の男 ボブ・ウッドワード 日本経済新聞社
世界政治において一つの基準と見られることの多かった戦後のアメリカだが、その基礎にあるのはアメリカ政治のバックボーンを支える圧倒的な力と、ひとりよがりな部分もあるものの基本のところでは「良識」に基づいていると思わせる彼等のもつ「公平性」への信頼であったが、トランプ政権誕生以来、明らかにアメリカ政治思想のバックボーンが変わってしまっているように思える。
それこそ、彼の主張が「アメリカファースト」といわれる利己的な物に基づいており、しかも彼のいう「アメリカ」も、トランプ個人の尺度による「アメリカ」であって、かつて世界が憧れた理想の国としてのアメリカではないという点に世界が愕然とし、また、トランプのいう「アメリカ」以外は、全て敵もしくは部外者とみなされてしまっているという現実であろう。
ウォーターゲート事件を追及した敏腕記者であった著者が、このトランプ政権の内実に深く切り込んだのが本書で、発行がトランプ政権発足から2年ということで、最新の情報が盛り込まれていない点がやや不満ではあるものの、よくここまで政権の恐ろしい現実に踏み込んだ！と思える労作だ。
しかし、ここまでお粗末な人物が大統領に選ばれ、世界政治を手玉にとることができるというのも、いわゆる「民主主義」制度故であるということを思うと、本当に民主主義とは恐ろしい政治制度だ、と思ってしまう。
(18年11月発行)