心理学の7つの大罪 クリス・チェインバース みすず書房
錬金術とは、卑金属を貴金属に変えようという夢のような技術の研究だが、中世には大真面目に取り組まれあの近代科学の祖とも仰がれるニュートンでさえ、彼が生涯研究に取り組んだのが錬金術であったと言われる。
しかし、その錬金術も貴金属を卑金属から合成することができないということが分かって以来、中世の人々がとりつかれたバカバカしい幻想だったとして今や笑いものになってしまっているが、心理学者である著者は、心理学も今のままの状況が続くならば、いずれ錬金術と同じ道を辿ることになると警鐘を鳴らす。
それは、現代の心理学研究において横行している捏造・改竄を含む大きく分けて七つの研究不正が、心理学そのものの信用を大きく傷つけ続けいるからだという。
心理学の現場からのいわば内部告発ともいえる各項目はショッキングであると同時に、こういった不正が大きな補助金を受け新たな不正のシステム作り、そしてムダな社会生活費、医療補助金などに浪費されているとしたら―――と考えると愕然とする。
具体的に七つの大罪とは、現代心理学が「バイアスの影響を免れていない」「分析に密かな柔軟性を含ませている」「心理学は自らを欺いている」「心理学はデータを私物化している」「心理学は不正行為を防止できていない」「心理学はオープン・サイエンスに抵抗している」「心理学はでたらめな数字で評価を行っている」の七つであるが、心理学界の外部の者には知りえないような事柄ばかりであるにもかかわらず学界内では皆が知っている事柄であるという点がこの学問の底知れぬ不正の告発として身の毛がよだつような気がする。
著者はこれらの不正に対する救済方法を数々挙げているが、その中でも実験計画の事前審査を義務づけ、予期される“罪”の回避案しようという「事前登録制」は注目に値するのではないだろうか。
今までは実験結果が出てからその結果を自分にとって都合のいい結論に結びつけてしまうということが許されており、実験の追試験も行われないとなれば、実験者の思いのままの解釈がなりたってしまうという。
もっとも本書に掲げられた問題の多くは、心理学にかぎらず多くの学問や、たとえば世論調査の解釈などでも広く使われていることを考えると、本書の警鐘の重みがなお一層感じられるではないか。
（19年4月発行）