デモクラシーの宿命 猪木武徳 中央公論新社
チャーチルの言葉ではないがデモクラシーは実に様々な欠陥がありながら、これに代わるよりよい制度はない、という人間社会の行き詰まりともいえる現状に対する何らかの処方箋が欲しいところだが、社会政治学の良識とも言われる著者の提言は、すっきりした処方箋とまではいえないまでも、何か少し行く先に光明を見せてくれているように思う。
民主主義の対象を、世界とするか、あるいはトランプ流の「一国主義」とするのか一つとっても、いずれかをとればいずれかの民主主義が成り立たない、といった問題が現実に起きており、ここに「人権」といった問題が更に絡めば、それこそ抜き差しならない問題に直面する。
著者は、この問題にアリストテレス、アダム・スミス、トクヴィル、福沢諭吉らの著作を引用してその碩学振りを発揮しているが、いま民主主義が直面する余りにも複雑な問題に対する即効の処方箋になるかというと、再び原則論に戻って民主主義の理想を語っているような面が強く、いささかガッカリするところもある。
（19年6月発行）