日本人の勝算　　　　D・アトキンソン　　　　東洋経済新報社　

経済学者が経営に携わった企業が、破たんした、というケースが少なからずあり、経営とは現場の感覚をいかした実学でなければならない等ともいわれるが、その手の経営者でも一時期成功しているように見えながらやはり上手くいかなくなった―――等という例も実に多い。

国家規模の経済運営にしろ、一企業の経営にしろ一筋縄ではいかないしこれなら上手く行く、という究極の理論等ない、ということではないかとも思う。

在歴30年という経済アナリストの著者による日本経済、日本的経営の分析は、なるほどいわれてみればそうだ！と頷ける部分も多いが、その分析による処方箋は、納得いく部分は多いものの実行に移せるか？となると、結構難しいと思える部分も多く、ある意味「風が吹けば桶屋が儲かる」理論のようなものにも思えてしまう。

本書の中で著者が繰り返し言っているのは、

1．今までの人口増加社会を基礎とした日本経済の成功は、これからの人口減少、そして高齢化社会では成り立ちえないから、パラダイムシフトが必要だ。

2．人口増加社会では、労働生産性が低くても代替がきいたが、人口減少社会ではもはや代替は利かなくなる。

3．従って、労働生産性を上げる為には最低賃金の底上げをはかり、一人一人の能力アップを図る（人材の量から質への転換）、女性や高齢者の活用、優秀な外国人労働者の活用、といった施策が喫緊の課題となる。

4．観光戦略を更に強化して、人口減少によって減って行くであろう内需を活性化するとか、技術輸出などによりトータルでの需要を増やせ。

といったことだ。

過去の成功体験があってそこそこに成功をおさめた経営者や、政治家こそがそういった新しいパラダイムマインドに切り替えなければならないし、日本にはまだまだ生かされていないポテンシャルがある！という著者のエールは、なんだか嬉しくもあるのだが―――。果たして、実現の可能性はとなると、ちょっとシュンとしてしまうところもある。

(19年1月発行)