アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した
ジェームズ・ブラッドワース 光文社
急速なAIの進化で確かに人のやる仕事がなくなってきているのは、駅の改札やスーパーのレジのおばさんの数などをみていれば、ひしひしと感じるところだが、少し前ならもう少し専門職っぽい銀行の窓口係だとか行政書士やら会計士などという職業も既に人間が出る幕は少なくなっているし、いずれ全てがAIにとってかわられるとも言われている。（野球の審判だっていまやビデオ判定の結果に誰も文句が付けられなくなっているのだから、その内に野球場から人間の審判は消えているかも）
すでに宅急便の配送センターや、自動化された工場などでは一っ子一人いない―――等という所もでてきているし、単純労働のほとんどすべてが自動化されるだろうとおもえてくるが、そういう時代になったとき人間は何をしているのだろうか。
一つの考え方では、AIに使われる仕事―――例えば、AIの電源を入れるだけの仕事が、まあ、人間に残されるだけかもという説まであるが――――。
本書では、既にそういったディストピアになりつつある仕事を著者が実際に体験してみたという、何ともユニークな体験ルポだ。
著者が体験したのは、英国で最底辺の仕事といわれるアマゾンの発送センターの係員、訪問看護師、コールセンター従業員、ウーバーのタクシー運転手などの仕事だ。
これらの職場では、機械化による極端ともいえる合理化が行なわれており、どうしても未だ人間を必要とする仕事も、人間は機械の部品のように扱われる極度の合理化が行われ、雇う側の最大利益の確保がはかられている。
人間を部品として扱うのだから、少しでも能力が落ちれば替えはいくらでもあるのだからと、使われている人間のいわゆる人間性などというものは全く無視される。
いまから80年近くまえに、チャップリンが「モダンタイムス」に描いた世界が、現実に実現しつつあるのだという何とも言えない恐怖感さえ感じるルポだ。
GAFAに対する規制が言われはじめているが、既に巨大化したこういった巨人たちに対する規制がどれほど実行力をもつのかは全くの未知数といえるし、夢の世界ともいわれている電脳社会化という現象は、開けてしまったパンドラの箱と同じで、もうもとには戻しようもない事を考えると、100年後、いや50年後の社会を待ち遠しいという気持ちには中々なれないように思う。
(19年3月発行)