21世紀の戦争と平和　　　　　三浦瑠麗　　　　　新潮社

既に70歳を過ぎた自分でさえ戦争の経験はない。軍隊経験があるという人たちとなると既に90歳を過ぎているし、幼少時に戦災だとか、戦後の食糧難を経験した、あるいはうっすら覚えているという人も、いまの日本では極めて少数になっている。その一方では世界では未だに戦争や、紛争は次々と起こっており、日本を取り巻く情勢もそれ等と全く無縁という訳にはいかず、安全保障という面からみれば、今やかなり情勢は緊迫しているのかも知れない。

そんな状況の中で戦争や安全保障を語ると、どうしても実際の感覚を伴わない、絶対的平和論やら、むやみと向こう意気の強いタカ派論になりがちなのは、憲法9条の改定一つを議論しても、いかにも地に足のついていない賛成、反対論になりがちなことからも居えるだろう。

安全保障一つをとっても、自衛隊員やその家族を除けば、我が身を現場に置いて命を張って――という実感がないだけに、自衛隊の賛成、反対にしても空論になりがちだ。

著者の主張はこのような現状を踏まえるといっそ日本も徴兵制度を採用すべきではないかという。そもそも、軍隊というものは好戦的で戦争をしたがるものだと考えがちだが、お隣の韓国をはじめスイスなどの徴兵制をとっている国々は、自分達、あるいは自分の子供たちが戦争で命の危険にさらされるのではないかという切迫感を、国民全員が持つことで、却って戦争を避けようとする総意が働き、徴兵制をとらない国のように、当事者以外の国民の無責任と言ってよい夢想的平和論や、その逆の好戦論といった極論が排除される傾向にあるという。

言われてみると、なるほどと思える説だとは思うが、憲法9条の改定論議さえ避けようという風潮にある今の日本においては、徴兵制提案などというものが、まともに検討される余地は全くないし（検討していると知れただけで大変なことになる）若い売り出し中の女性評論家ならではの、いささか奇をてらった提案、として一笑に付されるのが関の山、という気がしないではない。

（19年1月発行）