道元　正法眼蔵　　　　　ひろちさや　　　　　NHK出版

昔、故郷の鳥取の山奥の曹洞宗の禅寺に寄宿して受験勉強をしていた時期があってその頃から道元の「正法眼蔵」に興味を持ち、今までに何度挑戦したことだろうか。

しかし「不立文字」（言葉や文字では言い表せない）といわれる禅の神髄と言われるこの本には跳ね返されるばかりで、毎回挫折ばかりでついにこの齢になってしまった。

たまたま、分かりやすいといわれる本書を見つけたので喜んで読んでみた。NHKの「100分で名著」のテキスト版的な入門書だけに、まさにエッセンスのみが書かれており、本書を読んだからと言って正法眼蔵のほんの入り口に立ったに過ぎないものの、これまでの50数年の間に挑戦し、挫折した断片をを思い出し、懐かしむ―――という意味ではおもしろかったといえる。

本書もいっているが、正法眼蔵は勿論仏教書ではあるが、実は根本的には哲学書でもあり、実際、哲学書あるいは人生の手引書としても世界最高レベルにある書かもしれない。

特に、時間について過去も未来もなく、あるのは常にただ現在だけである―――と説く部分などは、ハイデカーよりも何世紀も早くこういった思索の結論に達していた道元に改めて驚嘆する。

この齢になって、今の自分の歳ぐらいであった母方の祖父が、いつも仏法書を読んでいたことを思い出した。

（18年8月発行）