貿易戦争の政治経済学　　　　ダニ・ロドリック　　　白水社

グローバリゼーションにはもちろん正の側面と、負の側面があることは最初から指摘されていたが、全体のパイが大きく成長を続けるなかで、負の側面は忘れられてきたし、それを強調する声も無視され続けてきた。

しかし、ここにきて当初指摘されていたように負の側面である貧富の格差が許容しがたいほどに拡大し、勝者と敗者があまりにも鮮明になってきたことで、グローバリゼーションそのものがいけないことのように言われるようになっている部分もあり、トランプの主張するような「アメリカファースト」、あるいはイギリスのEU離脱騒ぎのような現象が顕著になりつつある。

グローバリゼーションがいつかこういう現象を生むであろうことは最初から、だれもがわかっていたことでもあったのだ―――と今改めて思い出している人がいかに多いことか―――と考えざるをえない。

グローバリゼーションの進展に伴う利益の配分は、必ずしも、均等に配分されるわけではなく、貧富の差は許容できないほどに広がることを、著者は早くから警鐘を鳴らしていたし、この波には必ず揺り戻しがあることは、わかりきっていたし、それがいま現実となっているのだと言っているが、それを感じているのは何も筆者だけではないのに―――とちょっと皮肉に考えてもしまうのだが――――。

では、どうしたらよいのか、という提言が経済学者にとっては今一番大切なことだと思うが、著者はその現状に対する処方箋として、国家がその役割を発揮して「想像力を駆使して優れた制度を構築せよ」と提言しているが、その提言は、いささか具体性に欠けており、必ずしも明解なものとはいえないようにも思う。

(19年3月発行)