「差別はいけない」とみんないうけれど　綿野恵太　　　平凡社

「差別はいけない」という言葉の正しさについて今や誰もが反論しない社会になっているが、絶対的真理とさえ言われる言葉に、なぜか居心地の悪さを感じている人は多いのではないだろうか。

それは、「差別」とは何か、という絶対的尺度がいまだにあいまいであるにもかかわらず、「それは差別だ」と言われてしまえば、もうそれ以上の反論ができなくなってしまうことに居心地の悪さを感じる人たちが少なからずいるからだ。

例えば、男女差別と一言でいっても、男女には生理学的な違いがあり、その違いの扱い方が、「差別」になるか「区別」になるかは、微妙にことなるからだ。（男子用トイレに女性が入ることを注意したら―――その逆であっても―――それを差別とはいわないだろう）

しかも、現代はネット社会となっているから、匿名による「差別主義者」扱いや、それに対する反論や中傷も野放図になっており、まともな論議ができにくくなっていることも、言論の自由のはき違えによる抑圧社会化現象になっているのではないだろうか。

実社会においては、得てして、何かのマイノリティは、別の何かのマジョリティだったりするから、何かの「差別だ」という非難が、新たな差別を生み出している等といったことも起きている。

カール・シュミットはかつて、民主主義と自由主義を対比することで、この二つが必ずしも両立しえないことを示したが、現代社会においてもまさに「差別と区別の違い」に基づいて起きる、「言論の自由」と「多数決による民主制」の違い、すなわち、現在の「差別論議」が、共同性と公共性の違いという実に微妙な点を省いて規定されていることにこそ問題があるという指摘には考えさせられる。

(19年7月発行)