想像の共同体　　　　　ベネディクト・アンダーソン　　　　書籍工房早山　　　

同じ国の国民であるという意識がいわゆるナショナリズムの根本であるが、この「同じ国の国民」という意識こそは、人々の想像に基づく幻想にすぎないというのがアンダーソンの主張だ。　

例えば「同じ家族」という意識は、「血のつながりがある」といったそれなりの裏付けがあるが、「同国民」という意識は、例えば同じ言葉をしゃべっている、といったことによって人々が勝手に想像してしまう共同幻想にすぎないというのだ。

確かに、海外を旅行しているときに日本語が聞こえてくると、まったく見ず知らずの人達であるにも関わらず、その人たちに、なぜか連帯意識というか親しみを感じてしまうこととか、国際競技において「日本」というチーム名を名乗っている選手を応援し、勝てば我がことのように喜ぶのは、間違いなく想像上の共同体意識が働くからだろう。

しかも、「同じ国民」という共同体意識は、想像の中にしか存在しないというのが著者の主張だ。

たとえば「家族」という共同体意識はその構成員同士が、「同じ家族」であるとお互いに認め合っていることによって保たれている。（例えば、同じ屋根の下でくらしていても、居候はお互いが「家族」と認めていない）

この想像のみによって成り立つ共同体意識は、時には同一宗教の信者同士であるだとか同一のイデオロギーの持ち主同士であるといった意識をはるかに凌駕する威力をもっている。

著者はこの国民意識は、同一言語に基づく印刷出版、マスコミによって生じるものだと分析しているが、なるほどと頷かせられる。

（07年7月発行）