傲慢と善良　　　　辻村深月　　　　　　　　　　　朝日新聞出版　　

この作家の作品は何冊か読んでいるが、いわゆるライトノベルと言われるジャンルの作品だということだそうで、マンガを読むような気楽な感じで読み始めるのだが、ストーリーがなかなか巧みなこともあって本書も結構大部だが、ついつい引き込まれてしまう。

恋愛小説だとひとくくりに紹介されてはいるが、ミステリー、あるいは心理小説的な部分もあり単純な恋愛小説とはいえず、読者をぐいぐいと引き込む力がある。

婚活で知り合った西沢架と坂庭真実は婚約したが、真実がストーカーに付きまとわれていることから、二人は同棲を始めるたが、ある日真実は失踪してしまう。

架が真実の母親とともに真実のアパートを訪ねると架が贈った婚約指輪が残されていたことで、警察は真実が自分の意志で出て行ったもので事件性は少ない、としたのだが。

架は真実の出身地の群馬を訪れ真実のストーカーを探るのだが、徐々に真実の隠された部分を知ることになる―――。

後半は、現代人の複雑な精神構造を、女性作家ならではの筆致で描き出していて確かに「恋愛小説」と言えるが、その背景に、家族関係、友人関係といったしがらみに取り囲まれて自分の意志が奈辺にあるのかさえ分からなくなりがちな現代人の心理を描いて見事だ。

（19年3月発行）