中国の行動原理　　　　松尾知佐子　　　　中公新書　

全体主義的と一言で片づけてしまいがちだが、中国の政治行動の基本にあるのは、古くからの家族間における権威構造にある―――という指摘は面白い。

すなわち中国では、親子関係は権威的だが、兄弟間の関係は平等であり近親婚は厳しく禁じられている―――それはエマニエル・トッドのいう「外婚制共同体家族」と呼ばれる類型に分類される社会だというのだ。

この類型に属する社会では、父親は家族に対して強い権威を持ち息子たちもそれを認めているが、息子たちの間には上下関係はなく平等に扱われる―――息子たちは父の権威の下でそれぞれに、父に尽くし評価してもらおうとするが、その平等な関係にある息子たちは結婚後も皆、親と同居するため家族はすなわち大きく横に広がる大共同体となる―――というのだ。

今の中国では、父親的存在である習近平の絶対的権威の下で、息子的な立場である、各部局、あるいは各省などの組織が、それぞれが上下関係なく平等な立場の下で、習近平の気に入られようとして独自に行動する―――という体制になっているというのだ。

確かにコロナ騒ぎの対処の仕方一つみても、それぞれの組織が習近平の顔色を窺い、より評価されようとして情報の隠ぺいを行っている―――。

そう考えると外部から見た中国では、各部局が勝手に動いていて統制がとれていないようにも見えるのも、この中国的な「外婚制共同体家族」関係からくるものだという著者の指摘には説得力があるようにも思う。

（19年11月発行）