赤い髪の女　　　　　オルハン・パムク　　　　早川書房　

オルハン・パムクはトルコを代表するノーベル賞作家だということだが、この作品で初めて知った作家である。

この作品には、小アジアにあるイスラム国のトルコという我々にとっては、異界ともいえる国の情緒が実によく醸し出されていてこの作家に一気に興味が沸いた。

ストーリーには様々なテーマが盛り込まれており、主人公が少年時代、井戸掘りの親方の下で働いているときに親方から聞いた、『オイディプス王』の父殺しの話や、東洋の『王書』の中の子殺しのテーマにからめた文学談義などの伏線、そして少年時代の彼が魅入られた「赤い髪の女」との恋愛エピソード、さらには作家を夢見ながら、実業家として成功していく彼の成長物語や、近代トルコ政治の複雑さ――等々のテーマが混み入って語られ、一体、この小説はどう収集されるのかと読みながら迷うが、ストーリーの最後には、これらの雑多なテーマがものの見事に収集されていくという驚くべき仕掛けが施されている。

一寸とっつきにくかった作品だが、読後感は重厚だ。

（19年10月発行）