LIFE 3.0 マックス・テグマーク 紀伊国屋書店
シンギュラリティ―が近いといわれる。それがいつになるかは論議をよぶところだが、数百年単位での将来までをスパンにおけば、今は単に碁将棋において人間の知能を凌駕しつつあるとか、膨大なデータの管理を一瞬にして行うことができるにすぎず、人間以上の見事な翻訳すらできないAGI（人工知能）だが、みずからをアップデートし、あらゆる分野で、人類をはるかにしのぐある種の生命体となる可能性は、十分あり得るようにも思える。
そんな未来が人類にとってユートピアになるのか、それとも多くのSFに描かれているようなディストピアとなるのかは、今現在の我々人類がいかにAGIを扱うかにかかっていると著者はいう。
著名な物理学者である著者の豊富な知見は、AGIの開発の現状、将来のユートピア説シナリオ、ディストピアシナリオに詳しく、本書の前半部分で詳細に語られるそれらの分析や、未来シナリオは十分すぎる読み応えがある。
しかし、本書の肝は後半、特にまとめ部分にあり、そこで行動力に優れた科学者である著者が、持ち前の行動力を発揮して多くのAGI開発者をあつめて、AGI開発における基本づくりの会議を開催した経緯が詳しく書かれている。
カリフォルニア州アシロマで開催されたこの会議は最終的にAGI開発における基本原則の確立を目指したもので、いわばAGIの開発憲法ともいえる原則を作成、多くの科学者の賛同署名をあつめたアシロマAI会議といわれるものだ。
著者とその趣旨の賛同者は、AIの開発原則の策定という目的のための資金団体を作り、テスラのイーロン・マスクをはじめ巨額の民間基金をつくった。この会議では、AGI開発があくまでも人類の幸福のためにあるべきだという著者のAGIユートピア論が元になって開催されたもので、それまでは、どちらかというとシンギュラリティ―の到来に恐怖感さえ感じている多くの人達に、AGIの未来像に希望Iを持たせる効果が十分あると思うし、我々もなんだかAGIの未来に明るさを感じることができるように思える。
実際、このアシロマAI原則通りの未来が来て欲しいものだと思う。
（11/03/20 10:00pm）