大名倒産（上下） 浅田次郎 文藝春秋
今や押しも押されもしない作家となった著者が思うがまま筆を走らせて描き出した大衆小説といったらよいだろうか。
徳川260年の長きにわたって積もり積もった越後丹生山松平家3万石の借財は、何と25万両、年の利息だけでも3万両に及ぶというのに藩の収入は年1万両だという。
この救いのない財政状況に、第12代藩主は策をめぐらし、藩の計画倒産を計ることにし、自らは隠居しかつて村娘に産ませてその村娘と共に足軽に下げ渡した子を急遽呼び戻し第13代当主として、幕府が領地不行き届きによる改易処分をするように仕向け全ての借金をチャラにしてしまおうと企む。
全ての責任は第13代に負わせ、自らはこっそり蓄財を重ねることによって藩士ともども逃げ切ろうという作戦だ。
そんなこととは知らぬ第13代小四郎は、誠実に藩主としての勤めを果たそうと涙ぐましい努力を重ねるのだが、なにせ金がない。
この物語の最初の山場は、初めてのお国入りの大名行列を、金をかけずに、しかも格式に則っていかにやり遂げるかだが―――。
小四郎のその糞が付くほどの誠実さに、徐々に周りの者や、七福神などまでもが打たれ、藩政の立て直しに協力していく―――という浅田ワールドが展開していくのだが―――。
作家が、伸び伸びと小説作りを楽しんでいるという感じを受けるいつもながらの著者の作風が読者まで、楽しませてくれる。
（19年12月発行）