海も暮れきる 吉村昭 講談社
自由律俳句の巨頭、種田山頭火と並び称せられるのが尾崎放哉だ。二人ともに世捨て人同様の放浪の旅を続けて絞り出した句の数々は、今も燦然とかがやいているが、二人ともに家族を捨てての草庵暮らしの果てに亡くなったとか、酒におぼれしかも酒癖はわるかったといったどちらかというと、社会的には失格の人格でもあり、もし周りにいれば余りかかわりを持ちたくないタイプのいわゆる変人だったらしい。
本書はその尾崎放哉が、死を迎えた小豆島の直前8か月の様子を描いたもので、吉村昭らしい徹底した取材と資料探索に基づくものだけに、放哉の破綻した人生と人格の生々しさ、悲しさが伝わってくる名作だ。
吉村が放哉を書こうとして取材の為に小豆島を訪れた時に、島人の幾人かは「なんであんな奴の事を書くのか」といったというし、吉村自身も放哉のことを「いやな奴」とおもっていたというエピソードを語っているように、放哉の人格はどうにもならない位崩壊していたようだが、そんな放哉のことを最後まで見捨てずに世話を続けた小豆島の人々もまたいたことが書かれているが、小豆島の美しい風土共に、放哉がその人生の最後には満足を得てその人生をおえたようにも思えた。
(11年5月発行)