禅談 澤木興道 筑摩書房
臨済宗の禅と曹洞宗の禅にはわずかな違いがある。臨済禅は公案と言われる問題を師から与えられ、それを禅を組みながらひたすら考えるといういわゆる禅問答を行うという形をとるが、曹洞宗の禅は「只管打坐」といってただ座りつづけて無念無想の境地に入ることを目的としている。
母方の祖父はよく臨済禅を組んでいたが、曹洞禅にもひかれていたようで、時々友人だったのだろうか雲水を泊めたりしていた記憶がある。
曹洞宗の禅僧として一生を送った澤木興道師は、彼が一生を通じて貫いた「只管打座」の禅生涯と共に、今もその足跡と業績を慕う人は多いが、本書「禅談」その禅談というか、説法は禅の神髄に迫るものだが、同時に、ある種のユーモアにあふれ難しい禅哲学を分かろうとするものにはなるべく分かり易くと考えて説いているところに惹かれる。
澤木興道師の逸話の中で、一番好きなものは、彼が五高生に禅指導を行っていた時に、一人が「和尚さん、只管打坐をして何の役に立ちますか？」と尋ねると「何の役にもたちゃせん！」と即座に答えたという。その逸話を聞いた時に、なんだか相当禅の神髄に触れたような気がしたものだった。
(18年4月発行)