闇の花道 浅田次郎 集英社文庫
「天切り松闇がたり」シリーズは、先ず第三巻「初湯千両」を読み、次に第二巻「残侠」と逆順に読んできたのだが、この「闇の花道」はそのシリーズ第一巻である。
大正6年に数えの10歳にもならなかったという主人公義賊「天切り松」だから、この舞台設定の90年代ならばもう、80を過ぎた老人ということになる。その天切り松が、拘置所で六尺四方にしか聞こえないという秘技「闇がたり」で留置人や看守を相手に昔がたりをするというシリーズだ。
その語りの、名調子、名セリフは聞くものをうならせる。読者も一留置人になったような気持ちで、この天切り松の闇がたりに引き込まれるという寸法だ。第一巻の幾つかの物語は、天切り松の生い立ち、すなわち幼くして母に死に別れ、ろくでなしの父親に姉は吉原へ売られ、自身は夜盗の親分「目細の安」の弟子へと生き別れた辺りからの人情話が中心だ。
吉原の苦界に身を沈めた姉と再会し、兄貴分にその姉を身請けしてもらうものの、その時姉はスペイン風邪に犯されて、弟の背中で息絶えて吉原の大門を出る。こういった、浅田次郎らしい、臭いと言えば臭い泣かせどころに、読者は引き込まれることだろう。
（02年6月発行）