ポプラの秋 湯本香樹実 新潮文庫
この著者の「夏の庭」は、老人と少年の交流の中から、老いるということは、そして死とは何かを問うという童話風の中々清々しい物語であったが、この「ポプラの秋」もテーマは同じ範疇といえるだろう。
交通事故で突然亡くなってしまった父の死というものの意味を必死に分かろうとする7歳の千秋が母と二人で住む「ポプラ荘」の大家さんは、ちょっと不気味で難しそうなおばあさんだ。
そのおばあさんが、ある日千秋に秘密を打ち明けてくれた。おばあさんは死ぬ時に色々な人からあずかった手紙をあの世にいる人たちに届ける手紙の配達人なのだという。千秋も、手紙を書けばそれを何時か死んだ人のところへ持っていってくれるというのだ。
その日から、少女は天国の父へ手紙を書き始める。おばあさんに手紙を頼む人は一杯いるらしく、そういった手紙がタンスの引き出し一杯になったらおばあさんは死んで、手紙は天国の父のもとへ届くことになるのだという。
18年後、おばあさんが亡くなったという連絡が入る。おばあさんのお葬式には、昔懐かしい「ポプラ荘」の人々、そして既に再婚して遠くに住む母、それに、おばあさんに手紙を託していたという多くの人が集まった。
いよいよ、おばあさんのお棺に多くの人たち手紙を入れることになったが、千秋は母が18年前におばあさんに託した、亡くなった父への手紙を読んだ。
そこで千秋が始めて父の死の真相と、あの時の母の気持ちを知ることになるーーー。
突然に父を亡くした7歳の少女の、本当にいじらしい気持ちとか、幼き日の思い出など、それぞれの場面の描写が、美しい筆致で描かれている。
「美しい話」が、こういう形ですんなり書けるということは、「夏の庭」同様に、この作者が本当に美しい心を持っているからだろう。
（97年7月発行）