きみを想う夜空に　　　　　ニコラス・スパークス　　　　　　　エクスナレッジ　　　　　　

The Notebook(邦題「君に読む物語」)は「マディソン郡の橋」を上回る大ベストセラーとなった恋愛小説だが、その著者の最新作である本書も2006年に発売されるやたちまちの内に全米第一位のベストセラーとなったという。

作者スパークスは、様々な職業を転々としたあと96年に「君に読む物語」を発表、以後着実に毎年1冊の割合で作品を発表、既に全米一の恋愛小説作家としての地位を確立している。

彼の作品は、恋愛小説というジャンルの中でも男の側からみた恋愛、しかも純愛といったパターンだが、これが大人たちの夢のような恋愛がしてみたいという潜在的欲求にぴたりと当てはまり、しかもいずれもの物語が現実にもありそうなストーリーに仕上がっていることがベストセラーとなる由縁ではないかと思う。

両作品ともに、現実では中々有り得ないような男女の組み合わせ（貧しい青年と、裕福な良家の娘といった）が、実にロマンチックな出会いの下に生まれる。二人の恋は燃え上がり、夢見るような幸せな日々があるのだが、やがて二人のおかれる現実によって徐々に変質し、二人は引き裂かれる。

それでも燃え続ける二人の恋心だが、いつしか女性は変心して他の男性との結婚へと進む。しかし、男は幾多の人生の困難にあいながらも永遠の女性である彼女のことを忘れず、一途に思い続ける。

果たして、この青年の純愛はどのような結末を迎えるのだろうか――――。といった基本的なパターンを持っている。

今回の作品では、この主人公は風変わりな郵便配達夫である父と暮らす貧しい青年だ。彼は将来に対する夢もなく、思い立ったように軍隊に入り刺青を入れ、クールカットの兵士としてコソボや中東での戦闘に従事している。

その兵士ジョンが父に会いに軍隊の休暇で帰郷していた23歳の時に、偶然出会ったのが、休暇を兼ねたボランティア活動で浜辺の家に同級生たちといた21歳の大学生サヴァナだった。二人の出会い、そして互いに燃え上がる恋、二人の楽しい夢のような日々は過ぎ、やがてジョンは休暇を終えて軍隊にもどらざるを得ない。

二年後二人は再会し愛を深め結婚を誓うのだが、そこに起きた9:11事件、ジョンは愛国心にかられ兵役延期を願い出た。遠く離れている内に彼女は遂にジョンへ別れの手紙を書き故郷で結婚してしまう。

こういったスパークスの恋愛物パターンに、軽度のアスペルガー症候群患者である父とジョンとの親子関係、そして父の死、あるいはサヴァナの幼馴染の男友達とその彼の病気、といった問題がからみ、又、この10年ほどのアメリカ軍の置かれた状況などが上手く散りばめられている。

更には、小洒落たジョンとサヴァナの流れるような会話、心理描写の巧みさ、泣かせ処を心得た物語展開、と大人のおとぎ話としての恋愛が、実によく描かれている。さすがに全米一の恋愛小説家の作品だ。

但し、このパターンがいつまでも飽きられずに続くのだろうかとは、ちらっと思わないではなかったが。