数の魔力　　　　　ルドルフ・タシュナー　　　　岩波書店　　

小川洋子の「博士の愛した数式」の中で出てきた友愛数や完全数といった不思議な数の存在は、既にピタゴラスの時代から知られていたという。人々は、このような数の不思議に魅入られそこに何か超自然的な神、もしくは魔力が存在するのではないかと考えてきたのは、おそらく星空を見上げていた太古の人々が、天体の運行の周期性に気付き、それが正確な数のルールによって支配されているのではないかと感じたところから始まったのかもしれない。(日本人が4を、西洋人が13という数字を忌むといったことにも人が数字になにか魔力的なものを感じてきたことの証左なのかもしれない）

本書で取り上げる数の不思議さ（魔力と表現してもよいかもしれない）は実に多様だ。

ある者は聖書の文言には数によるメッセージが込められているといい、あるいはバッハの調べも数による暗号が秘められているという。冒頭の2章では聖書の文言や、バッハの調べにどのようなメッセージが込められているかという著者の「謎解き」が詳細に述べられているが、読み進めるにつれて著者による「数の魔力」講義に段々とマインドコントロールされていきそうだ。（例えば、音律の数字的な仕組みがなぜ人間の本能的な音感にぴったりするかについて「なぜそうなるのか」と考え始めると、やはりそこにはいかにも「魔力があるから」という答えが一番しっくりするような気さえしてくる）

本書は数学の本という訳ではないようにも思う。まさに、「博士の愛した数式」同様に、数というなんとも超自然の意思を感じさせる不思議な概念についての案内書というべきものというべきなのかもしれない。

デューラーの魔方陣、ノートルダム大聖堂の黄金比、オイラーの音格子に秘められた神秘的な不思議さから、2進法、3進法の話など、実にその取り上げる問題は多彩で面白い。

「無限」は「数」という概念に当てはまらないといったことなど、まさに数学がかつて「哲学」の一部であったという事実を改めて思い起こさせてくれるなど、スリリングな一冊ともいえる。