きことわ　　　　朝吹真理子　　　　　　新潮社　　　　　　

石原慎太郎が芥川選考委員から下りたという。

理由は「新しい文学の刺激がほしいと思ったけど、あまりなかった」からだという。なんとなく彼の言いたいことが分かるような気がしないではないのは、やはり最近の芥川賞受賞作品には小才のある作り手が上手に作った作品といった印象の強いものが多く、慎太郎のいうところの「文学的刺激」にはほど遠いものが多いという印象を自分も感じていたからだろう。

第144回の芥川賞を西村賢太の「苦役列車」と同時受賞したのが本作であるが、「苦役列車」には太宰や安吾流の退廃性、嗜虐性などの異質さがあり、それなりの「刺激」もないではなかったけれど、それに比べると本作はやはりどうしても刺激に乏しい小品であって、こじんまりしすぎていて「小才の作為」的な物を感じてしまう。

まあ、言い方を換えれば、この作品も「若き女流作家によるみずみずしい生命と永遠の時間へのオマージュ」ととることもできるのだろうしそう読むべきなのだろうが、歳の所為なのか、それとも作家との人生経験の違い故かは分からないけれど少なくとも「文学的刺激」は感じない。

子供のころ葉山の別荘で共に夏をすごした別荘主の娘「貴子」と管理人の娘「永遠子」が25年を経て再会する。

過ぎ去った日々の追憶から今日までの時の経過が、生命誕生以来今日までの時の経過と重なって−−−時というもの自身が一つの生命と混然としてくる不思議な感覚を女性らしい柔らかな文章で綴った物語は、確かに作者と同年代、もしくはそれ以上の年代の女性には受けるかもしれない美しさがあるのだけれど−−−。