シンメトリーの地図帳　　　マーカス・デュ・ソートイ　　新潮社　　　

「素数の音楽」の著者であるオックスフォード大学の数学教授、デュ・ソートイの一般向け群論解説書である。

超天才ともいわれながら20歳で夭逝したガロアが切り拓いた群論は、ガロアの論文が当時の数学界においてもその余りの難解さもあって理解されなかったという超難物だが、それだからこそこの迷宮に分け入って苦闘を続ける数学者は多いという。

著者自身もそんな数学者の一人だが、自らの生い立ちから、数学を目指す一学徒としてのキャリアーの始まり、様々な数学者たちとの競い合い/協力の思い出、あるいは数学者としての自らの人生観、群論研究に携わった多くの数学者たちの生涯や業績といったトピックとともに一般にもできるだけ分かり易いように群論の概要を解説するという中々内容の濃い労作である。

群論そのものの理解にはいたらなくても、物語風に語られる著者の群論物語はスリリングであり、ページをくくるのがもどかしく感じるほど面白い。

著者はまず図形としてあるいは自然界に現れるシンメトリーが、ガロアの群論でどのように数学的に置換できるのかから説き起こす。

自然の図形、音楽、あるいは原子、分子の構造に表れるシンメトリーを数字に置き換える理論が群論だが、数学的にシンメトリーを探求しはじめるとそこには無限に広がる魔宮のような対象性の世界が広がっている。

素数やπに潜む不思議さと同等、あるいはそれの数倍も不思議なシンメトリーの魔宮に魅入られた数学者たちは、果たして幸せといえるのだろうか、それとも−−−。

群論に魅入られながら「この謎を解いたからといって一体何の役にたつのだろうか」と悩む若き数学者の話など、我々凡人が知りえない世界の話がたくさんエピソードとしてとりあげられており数学あるいは群論という部分を離れても楽しめる一冊といってよい。

本書のタイトルは群論研究者たちが発見したシンメトリーのモンスター（196,883次元に出現する808ｘ10⁵¹個からなるシンメトリーを掲載したシンメトリーアトラス）から来ている。

それにしても凄い数字だし、こんなことを人間の頭脳が解き明かしたということもまさに神業としかいいようがない。