藤澤清造短編集　　　　　西村賢太編　　　　　　新潮文庫　　

「苦役列車」で芥川賞を受賞した西村賢太が私淑する大正、昭和期の作家、藤澤清造の短編を西村自身が厳選収録したのが本書。

学歴もあり、豊かで、おしゃれで流行の先端をいくような若手作家の作品がもてはやされる昨今、西村の自らの劣等感、貧しさといった辛気臭い立ち位置をベースにした自虐的な作品は異色であり衝撃的でもあった。

そんな西村が惹かれその没後弟子だと自称する作家藤澤清造も、その西村の立ち位置にいた作家のようだ。

本書に収められ藤澤の作品も、いずれもそのテーマは貧しさ、あるいは救いようのない怠惰さ、抑えようのない劣情、といったものであり、まさに辛気臭さ満載だ。

こういったテーマこそが文学であると思われていた時代があったし、そんな時代においてさえ決して高い評価を受けることのなかった藤澤の生き方、作品に同類項的な親しみを感じるからこそ、西村が藤澤にこれだけ没頭できるのだということは理解できるのだが―――。

只、正直言って、藤澤が当時から必ずしも高い評価を受ける作家ではなかったという理由も、この作品集を読んでうなずけなくもない。

キラリと光る部分もあるが、作品としての完成度という点では落ちるものも多いし、逆にちょっと作りすぎ（陳腐）と受け取れる作品もいくつかある。

作品そのものと作家の生き方が一つでなければならないという思い込み（？）にとらわれた作家（太宰などもその一人かもしれないが）の悲劇と喜劇がここにあるといってもよいのかもしれない。