複雑系の世界　　　メラニー・ミッチェル　　　紀伊国屋書店　　

「複雑で単純な世界」で複雑系科学をもっと知りたくなって手にとった一冊だ。

副題が「サンタフェ研究所講義ノートから」とあるように著者は、複雑系科学研究の総本山であるサンタフェ研究所の客員教授であり、本書の目的も複雑系とはそもそも何ぞやという基礎からはじまり、免疫系、インターネット、国際経済、ニューロンなどに現れる複雑系の仕組みの解説に至るいわば「複雑系のガイドブック」である。

取り上げられるテーマは広範囲に亘り、しかも興味深いものばかりだ。

一匹一匹は極めてシンプルな動きでしかないアリが集団としてはあたかも一つの組織としての振る舞いを整然と行えるのはなぜか―――人の神経細胞一つ一つの働きは極めて単純なのにもかかわらずそれが膨大な集団として働く時、「意識」というものが産み出される仕組みは一体どうなっているのか―――等々、説明はかなり細かいところにまで及ぶ。

ただし、複雑系に関するいくつかの予備知識がない読者にとってはいささか難解に思える部分が少なくないようには思うが―――。

考えてみると、自然界の振る舞いの実に多く、言い方をかえれば大部分は「複雑系」に基づいており、古典物理学で語れる分野の方が少ない位という気がしないではない（天気予報や株価予想が当たらないのは複雑系でそれらが動いているからであり、人知は複雑系の法則を知りえない）だけに、ますます複雑系科学に対する興味が深まってくる。