定年待合室　　　　　江波戸哲夫　　　　　 潮出版社　　　

著者は、都市銀行や出版社などでサラリーマン生活をしていたというから素人作家といったら失礼かもしれないが、この作品を読んでいても素人っぽさ（悪く言えば拙さ）をどうしても拭えないように思う。

もちろん、職業作家出身ではないというハンディも、いわゆる団塊世代としてサラリーマン経験を積んできたという強みで帳消しすることもできるはずだし、そういう経験は、プロの作家には中々ないものだろうから、体験に基づいたサラリーマン小説を書けば、団塊世代の元サラリーマンの読者の共感を得られるだろうし良い作品も期待できると思うのだが−−−（出版社もそんな期待からこの作家を取り上げているのだとは思うが−−−）以前本書評欄で取り上げたことがあったこの作家の作品同様（「左遷　商社マンの決断]）、リアルな経験と小説における創作力が上手くマッチングしてこそ「経験にもとづくおもしろいサラリーマン・企業小説」が書けるはずなのにこの作家の場合、ストーリテリングの部分が陳腐過ぎて成功していない。

本作もその以前の作品とほぼ同テーマ、左遷の憂き目にあい定年待ちの空ろな日々を送っているサラリーマンたちが、力を合わせて問題を解決していく−−−という、団塊世代にとっての痛快小説（？）という線を狙った作品のはずなのだが−−−。

月刊誌に連載されていた作品らしく、主人公がいてマドンナ的なヒロインがいて、そのマドンナの経営するスナックに集う主人公と同じような境遇のサラリーマン、元サラリーマンが持ち込む難問（もちろん商売がらみの）を、彼等「中年、老年お助けマン」たちが毎回、解決していく−−−という言い方はわるいが、かなりチープなマンガ的な物語展開であり、正直、最後の方になると読み進めるのがかったるくなってくる。

サラリーマン経験あるこの作家の「売り」も、実際のサラリーマン生活の場面を経験した人たちや実際にそういう問題を抱えた人たち（小説の中で使われている、デパートの外商、車のディーラー、首都圏分譲住宅地の買物問題、といった）の世界におけるリアルさのはずなのだが、いずれの話もウソっぽく（現実離れしている）しか見えない。

小説なのだから荒唐無稽、あるいは（まさか〜）と思える部分があるのは当然だし、あってもよいけれど、リアル振った書き方ながら、（まさか〜）と思うところばかりの物語となると、やっぱりこの作家の「素人さ」が鼻についてしかたがなくなる。

潮出版(創価学会系）発行ということからすると、作家は創価学会員なのかなぁ〜などと考えてしまったが。