下町ロケット　　　　　池井戸潤　　　　　　　小学館　

談合の渦中に巻き込まれた入社4年目の建設会社員を主人公にした「鉄の骨」等の現代企業小説のヒット作を次々に出している著者の2010年のこの作品は、翌年春の直木賞を受賞した。

著者は、最近は金融ミステリーなども手がけており、まさにトップクラスの売れっ子作家と言ってよいだろう。

元銀行マンという経歴を生かして、現代社会で実際に起きているフレッシュな題材を取り上げ、それぞれの業界の知られざる裏面、裏話などを巧みに取り入れ、リアル感に溢れたストーリーに仕上げるという手堅い作風は、かなり手慣れたベテラン作家の域にあるようにさえ見える、

人気の秘密は、ハリウッド映画によくある「正義は勝つ」的な痛快な予定調和的な結末、読者を十分ハラハラドキドキさせるストーリー展開といったエンターテイメント性といったところにあるのではないだろうか。

嘗て宇宙航空研究所員として、種子島宇宙センターからのロケット打ち上げに参画しながら、打ち上げ失敗の責任をとって航空研を退いた主人公佃航平は、父親が経営していた大田区の町工場を継ぎ、水素エンジンの開発研究を行なっていた。

町工場ながら技術に優れている航平の会社が開発したユニークな特許の数々は業界の中でも高い評価を得ている。

しかし、この特許に目をつけたライバル社は、航平の会社を特許侵害で訴えてくる。

特許侵害訴訟を長引かせることで、航平の会社への銀行、取引企業からの信用にダメージを与え、音をあげた中小企業をたたき潰してしまおうというライバル社の策謀に立ち向かうこの中小企業の奮闘の物語が前半に、そしてロケット打ち上げを全て内製で行なおうという巨大企業と、航平の会社の持つロケット打ち上げのキーデバイスである水素エンジンの特許を巡る争いが、後半の物語となっている。

技術に疎く、中小企業に過酷な銀行、下請けいじめに容赦のない大企業、特許訴訟テクニックを乱用する悪徳企業と弁護士、といった悪役を配し、下請けながら技術に優れる中小企業、その企業の中で自らの技術にプライドを持つ人々を善玉にしての（多少顔の痒くなるような）勧善懲悪の物語は、疲れずに読める娯楽作品である。