金子兜太の俳句入門　　　　金子兜太　　　　　　角川学芸出版　

詩人といえば、立原道造や中原中也といった何となくひ弱でナイーブな人物を思い浮かべてしまうが、俳人となると芭蕉や蕪村、一茶のように意思の強い、自己主張の強い人物を思い浮かべてしまう。

芭蕉は、「奥の細道」の旅にでるだけの気力、体力があった訳だし、一茶の生き様（参照：「ひねくれ一茶」）などいわゆる詩人のイメージとはかけはなれている。

現代俳句ならそういう意味での俳人らしい俳人といえば金子兜太がその一人だ。日銀に勤め、従軍経験を持ち定年後には俳人として活躍、その従軍体験、あるいはNHKの俳句番組における他の選者などとの激しい論戦などから受けるイメージは、やっぱり「俳人というのは、相当個性の強い、バイタリティーに溢れた人でないとつとまらないのでは―――」と思わせるところがある。

本書も、そういった著者らしい、自身に溢れた俳句講座である。82項目に亘る句作の基本ポイントの解説だが、ある面では「季語にとらわれない」「生活実感を表す」「主観を吐露する」といった従来の俳壇の重鎮達が目をむきそうな斬新な俳句論もあり、又一方ではかなり古い俳句論と言った部分もあるなど、兜太自身の俳句論がストレートに展開されている。

放哉や山頭火等の新体詩や虚子俳句に対する忌憚のない見解を述べるなど、入門書として読む以外にも、金子兜太という俳人の句を鑑賞するための手引書（アンチョコ）としても面白い一冊だとおもう。

「曼珠沙華どれも腹出し秩父の子」　　　兜太