｢ネットの自由｣VS.著作権　　　　福井建策　　　光文社新書　

そもそも｢自由｣とは何だろうか。自由と放埓は違うというが、放埓さをできるだけ排除しようとすればそれを「自由」とはいわなくなるのではないかという自己撞着に陥ってしまう。ルソーの時代から未だに「自由」とは何かという根源的な命題の答えは出てはいない。

一つの例がネット社会はいかにあるべきかという問題である。

がんじがらめに法律や規制が張り巡らされた中で一定の規律の下に行われる言論が、「正しい言論の自由」なのか、便所の落書きに代表されるような猥雑な、あるいは仲間内で交わされる他人の噂ばなしといったものも「言論の自由」を主張すべきなのか（言論が、本来的に「自由」であるべきだとするならば、全ての言論に規制を加えることは自由の束縛になるとも考えられる）、小さな小競り合いはしばしば起きている。

「自由でオープンな情報の交換」を理想として拡がったネット社会であったはずだが、そこには著作権をはじめ、プライバシー保護、あるいは匿名性に依拠した名誉毀損や犯罪といった様々なマイナスの要素も含まれていることで、様々な規制が行なわれている。

まさに言論の自由も「放埓な言論とは違う！」という考え方を万人が認めざるを得なくなっている以上は、こういった規制、規則も必要悪だということなのだろうが、それはとりも直さずネットが目指した「自由でオープンな情報の交換」を貶める結果になってはいないだろうか。

本書は、著作権問題という観点から現在進む、「ネットの自由」に対する侵害について述べた刺激的な一冊である。

山田奨治著｢日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」にもあった改正著作権法による尋常ならざる情報の出し手保護規定の事実、TPPに名を借りたアメリカのネットメディアによる日本のネット社会ルールの米国化策謀の数々など衝撃的な事実が語られており、又、著者の抑制しながらも鋭くネットのあり方を説く公正な姿勢には大いに共感を覚える。

著作権保護に対するチャレンジは、そういった権利の上に成り立つ出版業界やマスコミにおいては、意図的に排除されてしまい中々、一般のネット受益者の目に触れることはないが、よくぞ光文社はこの本の出版に踏み切ったものだと思う。

ネットの自由を求めて暗躍（？）するハッカー集団、アノニマスは悪者集団だ！というネットを支配する側の論理に全く異議を唱えない日本人にとって、欧州各地ではすでに地方議会の15％程度をこのアノニマス集団と同根とおもわれる海賊党などの｢ネットの自由｣要求派が占め始めていることに、もう少し注意を向ける必要があるのかもしれない。