宇宙96％の謎　　　　　佐藤勝彦　　　　　角川ソフィア文庫　　　　

ビッグバン理論では宇宙は超高温の火の玉から始まったと説くが、それではなぜこの宇宙の始まりに火の玉があったのかという疑問には答えられなかったのだが、そのビッグバン理論の不完全な点について「インフレーション理論」という回答を与えたのが著者である。

Cobeなどの観測結果によりインフレーション理論の正しさが実証されてきているが、本書ではそのインフレーション理論の提唱者本人が、この理論を解説、又、どのようにしてこの理論に至ったかのかといった研究経緯、あるいはインフレーション理論と、現在盛んに研究されている多次元宇宙論、M理論との関係などについて述べたものだ。

さすがに発見者自身によるインフレーション理論の解説だけに、数多くの解説書を読んでも今一つ納得のいかなかったこの理論の理解が深まること請け合いだ。

「ビッグバンはインフレーションによって始まった」というインフレーション理論だが、それではなぜインフレーションといういわば無から有が生じるような現象が起きたのかについて、ホーキングの無境界仮設、虚時間という考え方を交えながら｢真空の相転移｣こそが「無から有の誕生」のキーであることを説いている。

我々が容易に想像することができない「無からの誕生」という理論だけに、この部分が宇宙の創生論の肝ともいえる部分であり、それをインフレーション理論の提唱者自身の解説で学ぶことができる点が本書の最大の価値であろう。

表題通り、宇宙の96％を占めるダークマター、ダークエネルギーについて最新の研究状況を含めてヴィヴィッドな話題も豊富だ。（参照：「4%の宇宙]」

但し、本書の初版は03年に書かれており、08年に文庫化されたのが本書ということもあり、ヒッグス粒子の発見、CERNにおける最新発見といった超最新の事柄についての記述が欠けているという意味では残念な部分も残る。

できれば、著者に最新の情報をいれた改訂版を作って欲しいと思う。