にんげん蚤の市　　　　　　　高峰秀子　　　　　　　新潮社

交遊録といっても隣のおじさんや、会社の同僚との交遊を書いても他人の興味は呼ばないが、司馬遼太郎、梅原龍三郎、三船敏郎などなどの著名人との交遊録となれば興味津々となるだろうし、夫とのハワイでの休暇日記等という他人にとってはどうでもよい様なことだし、書き方によってはなんだか嫌味な自慢話にも聞こえかねないはずだが、それを大女優高峰秀子が書いたとなると、「優れた随筆」となるのだから面白い。

「わたしの渡世日記」(上下)でこの人の飾らない、それでいて心和む随筆に惹かれて手にとった本書だが、「私の渡世日記」に比べれば軽い読物という感じは否めないものの、月刊誌に連載された随筆というにはぴったりの読物であり、他の多くの作家達の「有名人との交遊録」や「優雅な休暇日記」にあるなんとなくスノブぶった嫌味が全然ない親しみの持てるものだ。

5歳から子役として活躍、多忙の余りにじっくりと学ぶ時間も無かったという著者だが、この文才は単に天賦のものとばかりは思えない。人知れずの苦労の中で、多くの人たちから学び、自分も努力を重ねてきたからこそ、こういった文章がかけるのだろうと思った。

嫌いな物は嫌いとはっきりと主張し、文章の中にはおもねりのような物が一切ないという歯切れよさも心地好い。