古代豪族と武士の誕生　　　　　森公章　　　　吉川弘文館　　

磯田道史氏の｢殿様の通信簿｣や「無私の日本人」などがベストセラーになったように、古文書研究に基づく日本史、特に表舞台的なものではなく裏面史的な日本史発掘の面白さが最近随分注目されているようだ。

どちからといえば中近世の古文書解析に基づくその手の裏面史が多いが、本書は、2世紀から11世紀に至る古代史をテーマにしてはいるという点では又新しい歴史アプローチ物として面白い。

本書がスポットを当てているのは、古代日本における地方統治の実態、中央政権の覇権役人と、地方豪族たちとの係わり方といったいままであまり省みられることのなかった研究分野である。

卑弥呼等の中央権力と当時、乱立していたといわれる地方豪族達との関係、あるいは万葉の時代、中央より派遣された国司たちは、いかにしてその任地で勢力を持つ郡司たちを手なづけて統治を行なっていたか―――といった問題は、今までの中央政権の盛衰にのみスポットを当てた歴史にはなかった、全く新しい古代史へのアプローチであり、新たな古代史の面白さを教えてくれる。

郡司の師弟を都の下級役人に取り立ててやるいわゆる「口利き」をエサに、任地での郡司の協力を得るとか、郡司の領地を国司が保証する、といった持ちつ持たれつの関係、「接待漬け」などという、現代の中央と地方役人との関係と同じようなことが今から1300年前も行なわれていたと知って驚きかつ笑った。

著者が研究のターゲットに絞った古代日本も、古文書によってまだまだ新しい歴史的事実が明らかになってくるようだ。

著者の次の著作が楽しみになってきた。

(13年1月発行)