シロアリ　　　　　　松浦健二　　　　　　　　　岩波書店　　　

この岩波科学ライブラリーは「フジツボ」をはじめとしてかなりマイナーな生物の本を出しているが、本書もそんな中の一冊であり今回は「シロアリ」である。

「フジツボ」の著者同様、本書の著者も自らの研究対象であるこの余り知られていない（というか、どちらかというと嫌われ者の）生物に対する「ラブ」は相当なものである。

シロアリは1億数千万年前にゴキブリ目の祖先から分かれたと考えられている昆虫で、現在地球上のほぼ全域に5000種類が生息し、その生息数はなんと24京にも達すると推計されるという。

アリやハチのように真社会性生活を送るが、このシロアリのおかげで森林の樹木などは分解され、再び肥料となって自然のサイクルが動いているわけで（そういうところが家屋などへのシロアリ被害という形で「害虫」とされる理由にもなるのだが）、地球上の生物サイクルにとってなくてはならぬ生物だといえる。

それでは、シロアリはどうやって樹木などを分解し、エネルギーを得ているのか―――それはシロアリの腸の中にいる無数の嫌気性原生動物がいて、その原生動物に付着するこれまた無数の細菌が窒素固定を行なっているという実に複雑な共生システムによるものだという。

シロアリのこういった菌類との共生関係をはじめ、その真社会性の詳細など、著者のシロアリLoveはとどまるところを知らない。

読後には、ただただ毛嫌いしてきたシロアリに対しての見る目が少し変わるかもしれない。（と、言って、著者のように、「好きになる」ということはないとは思うが）