世界がもし100億人になったら　　S・エモット　　マガジンハウス　

1944年、ベーリング海に浮かぶ孤島セントマシュー島に厳冬期の予備食糧としてトナカイ29頭を持ち込んだのはカナダの沿岸警備隊だった。翌年、第二次世界大戦終了とともに沿岸警備隊基地は閉鎖され警備員たちも島を去った。1957年、この島を訪れた生物学者は、島には1,350頭のトナカイが生息しているのを目の当たりにする。この島には厳冬期でも豊富なコケなどの地衣類が生えており、天敵もいないということもあってトナカイは13年の間に約50倍に増えていたのだ。その6年後の調査では島のトナカイは6000頭に達していたのだが―――再び調査隊が訪れた1966年、島にはわずかに41頭のメスと、健康とはいえないオス1頭がいるのみとなっていた。この島の豊富な地衣類も増えすぎたトナカイによって再生産が不可能なまでに食べつくされてしまっていたことがこの急激なトナカイ数の減少を招いたのだ。1980年の調査では1頭のトナカイもみつからず、絶滅が確認されたという。（参照：「ミイラになったブタ」）

1万年前、わずか100万人だった地球の人口は、1800年には10億人、1960年には30億人、現在では70億人を数えている。人口の将来予測によれば今世紀末までに世界人口は控え目にみても100億、今のペースで増え続ければ計算上では280億に達するといわれている。

200年以上も前にマルサスが人口論で述べた「幾何級数的に増える人口を、算術的にしか増えない食糧生産で賄うことできなくなる」という法則が現実となるのは、もう目の前ではないか、人類が、セントマシューズのトナカイたちの運命を辿る日のカウントダウンは既にはじまっているというのが、だれもが考える恐怖である。

本書は人口爆発がもたらすであろう人類滅亡のシナリオを掲げる一冊だ。

箇条書きと簡潔な文章で述べられるだけに却って人口爆発から絶滅への恐怖は増す。（ちょっとセンセーショナル過ぎるかもしれないが）その要点は次の通りだ。

食料---地球の農業生産量ポテンシャリティーをもってしても、100億人の消費をまかなうことは出来ない。

水---今世紀末までに地球上の淡水の量は100億人を支えることができなくなる。すでに、現在数十億人が極度の水不足で暮らしている。
エネルギー---エネルギー生産を今のまま石油、石炭、天然ガス中心にするなら、100億人時代にそなえてあと3万6000基の火力発電所が必要となる。
病気---日々数百万人の人と大量の物資が世界中を移動することによって感染性などの大流行が起こりやすくなっている。
気温---100億人の人類の活動によって世界の平均気温の上昇は、避けられない。そうなったら、地球は地獄と化す。

なるほど、そうであろうなぁ〜という指摘ばかりだが、問題は、人口増加問題にはいまのところ何の解決策もない！ということであり、本書も最後の結論が落語のオチみたいになっているところに、著者の絶望感が込められているように思う。