うな丼の未来　　　　　うなぎ資源協議会編　　　　　青土社　

「うなぎ大回遊の謎」の著者で日本うなぎの産卵地発見などの研究成果でも著名な「うなぎ博士」塚本勝巳教授が会長を務めるアジア鰻資源協議会日本支部が今年７月に行なった絶滅危機が叫ばれる「うなぎ資源」に関するシンポジウムの内容を纏めたのが本書である。

今年。環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定し、IUCN（国際自然保護連合）もレッドリストへの記載を検討中であるということを聞いてはいても、我々にとってはこれがどれほど深刻に受け止められているだろうか。

シラスウナギの価格高騰によって、うな丼の価格が随分と上がったとは知ってはいても、事態は本書で書かれているように、実はかなり深刻であり、このまま対策をとらなければ我々の孫や曾孫の時代には日本人がうな丼を楽しむことができなくなる、といった切迫感はないのではないだろうか。

シラスウナギの価格が高騰すれば、密漁が増えて更にシラスウナギが少なくなる、とか外国からの異種のうなぎの導入によるニホンウナギの生活環境の変化が引き起こす更なる減少等々の問題までを水産学者、養殖業者、行政担当者、報道関係者などが参加して意見を交換しあったこのシンポジウムが発信する警告は中々貴重だし、切迫感がある。

うなぎだけには限らない水産物の乱獲（たとえばサバなど）の実体についてもこのシンポジウムで発せられた警告は貴重だ。

養鰻業、うなぎ家をはじめ、この伝統食材によって生計を立てている人たちがいるという事実からは、例えば5年、10年の「うな丼禁止期間」を設ける訳にはいかないし、かと言って既に数千万年を生き抜いてきたうなぎを人口養殖によって一気に種の多様性を失わせてしまってよいものだろう等という問題を考えたら単純に「人工完全養殖をすればどうにかなる！」などという問題でもないようだし−−−。

人間という種族が、しかも70億を越えて尚増え続けていることが、いかに他の生物環境を破壊しているかを思い知らされる−−−。