道徳性の起源 フランス・ドゥ・ヴァール 紀伊国屋書店
「モラルの起源」で興味をもったテーマの本ということで見つけた一冊だが、取り上げられたテーマは前書とはかなり趣の違うものだ。
著者はまず道徳性の原初的な形が、人間のみならずボノモなどの霊長類、あるいは他の生物にも見られる様々な形の利他性にあるのではないかという議論を展開する。
それは、なにも象などが、弱った、あるいは死んだ仲間を起こそうとしたりする共感行動のみならず、親が子を気遣う行動を擬人化して考えるという、著者のヒューマニズム的な思想から出てきているようだ。
また、もう一つのテーマは、著者の専門分野である人類にもっとも近いといわれている霊長類、ボノモの社会行動の中に見える、まさに人間の持つ道徳性と極めて類似した反応についてである。
こういった記録などを見て行くと、確かに道徳性というものが、従来いわれていたように「人間だけが持ちうる物」という考え方が、ちょっと違うようにも思えてくる。
さらには、著者の議論は、このボノモが見せる道徳性の問題は、必ずしもネオ無神論者の主張を裏付ける意図でのものではないという展開を見せるのだが、この辺りになると、どうも科学者らしからぬ議論になってくる。
特に、宗教という上から与えられた物としての道徳、という考え方を否定する一方では「（ネオ無神論者も）宗教と良好な関係を保ち、宗教から学んだほうがいい」といったなんだか論旨の合わない部分もあり、科学者というよりは政治家っぽくなってくるところなどは、著者自身がまだこの問題を整理しきれていないようにも思えてしまった。
（14年11月発行）