日本人が知らない漁業の大問題 佐野雅昭 新潮社
マグロやウナギが獲れなくなってきており規制が始まっている。近い将来、マグロやウナギが食べられなくなる！さあ困った！といった危機説が喧しいが、ではいったいマグロやウナギが食べられなくなったとして日本人はそんなに困るだろうか。
もう何十年くじらを食べてはいないけれど、特に困ったということはなかったことを思いだすと、大げさに騒ぐほどのことでもないような気がするが－－－どうも日本人の漁業問題に対する認識は、マスコミ報道などに踊らされ過ぎているように思えなくない。
そもそも、2012年に日本で消費されたカツオ、マグロの総量は70.2万トンだがその内クロマグロは3％に過ぎないのだから、現在でもそんなに皆がトロを食べているという訳でもないのだから、「トロが食べられなくなって困る！」という話はやはり眉に唾をつけて聞いた方がよいのかもしれない。
ウナギにしても、前から高級品であったものを、一時期海外の資源枯渇さえ招きかねないほど乱獲し安売りのウナギを大量消費しておきながら、今頃になって「ウナギが食べられなくなったら困る！」なんて言いだすのも随分身勝手な話だ。
自然のままの河川を、コンクリート護岸にすっかり変えてしまい天然ウナギの生息環境を奪った挙句に、今頃資源保護だのなんだのと言ってももう遅いのではないだろうか、「ウナギは高級品」という昔に戻り、年に一回か二回食べられれば十分だと思うようにすれば、なにも騒ぐほどのことではない、と著者は言う。
漁業問題に関しては最近「魚はどこに消えた？」を読んだが、これでは、ノルウェーなどの漁業先進国（？）と比較し、日本の漁業の後進性を強く訴えていたが、本書はそれとは全く逆、そもそも日本の漁業をノルウェーなどのような人口の少ない国の大型輸出産業と比較すること自身が間違いであり、現在の日本の漁業のシステムこそが、日本という国の食糧供給にはもっとも適しており優れているのだと主張する。
いわれてみれば、昔から日本では四季に適した魚食文化が発展してきたし、それをささえるきめ細かな流通や調理方法が発達してきた。又、魚にかかわる人々の多くはいわゆる「目利き」と呼ばれるプロたちだ。単なる労働力として大量生産に従事している外国の漁業関連産業とは根本的に違うのだと聞くと大いに納得がいる。
ところが、最近は季節に関係なくサーモンばかりをたべる消費者が増え、安値大量販売をするスーパーなどによって、この流通も弱体化している。しかも、政府の対策も的外れで、国民の魚離れの傾向はさらに悪化していると著者は言う。
どちらかというと、ダメだ、ダメだ、といわれている漁業現場、魚流通の問題だが、むしろ、ダメなのは魚を消費する我々の側にあるのではと思わせる、なんとも斬新な見方をする一冊だ。
(15年3月発行)