岩は嘘をつかない D・R・モンゴメリー 白揚社
天地創造、アダムとイブ、ノアの方舟等々の聖書の記述はすべて事実であると信じるキリスト教徒にとって目の当りにする自然の営みや、観測事実と聖書の間で感じる齟齬や矛盾は、今も頭を悩ませる問題だ。(コペルニクスやガリレオの地動説、ダーウィンの進化論などが直面した「異端」としての非難などの受難も、まさに聖書と科学間の齟齬がもたらした騒動だ)
そういった中に、「ノアの方舟」の物語がある。
4000年前に創造された地球は、その後、神の怒りによって起こされたノアの洪水によって一度水没、その時におきた大洪水によって現在の地形が全て完成した―――というのだが―――そうだとすると、なぜ山の頂上付近の岩の中に4000年よりもはるかに古い生物の化石が見つかるのか、見たこともないような巨大な生物（恐竜）の化石の生物が今生き残っていないのは何故か等々、一体、どう理解したらよいのか―――等々古くから地質学者たちが悩んだ部分である。
本書は、ノアの方舟の逸話を中心に、地質学がどのようにしてこの聖書の記述と科学的事実の間で葛藤してきたかを明らかにしていくが、頭から聖書のノアの方舟のはなしを荒唐無稽なでっち上げだと嘲笑するのではなく、人々がどのような歴史的経緯を経てこの逸話を想像し、その話がいかなる経緯を経て聖書に入れられ、又、以後人々がどのような解釈をもって観察結果と聖書の辻褄を合わせてきたか等を詳細に語っている。
21世紀の今日でも、もちろん多くのキリスト教徒が、この世界は4000年前に神が創造して誕生し、人類の祖先はアダムとイブであり、ノアの洪水ももちろん実際にあったと強く主張しているが、彼等も本書に書かれたような理屈をもって恐竜やヒマラヤの山頂にある貝の化石と聖書の記述との辻褄を合わせているのだ。
それにしても、そんな創造論者たちが力をもって政治を動かしている国が世界一の軍事大国なのだと思うと、本書に書かれた事が、決して過去の歴史という訳ではないことに思い当たるし、ちょっと肌寒くなってくる。
参照：「ニュートンのりんご、アインシュタインの神」
(15年2月発行)