恋するソマリア 高野秀行 集英社
日本人2人が人質に取られて首を刎ねられたという衝撃的な事件がイラクのISIS支配地域であったというのに、この地域よりももっと危険だといわれるソマリランドを訪れた著者が、現地の様子を人々との触れ合いを通じてルポした前作『謎の独立国家ソマリランド』には驚愕したが、本書はそのソマリアに魅入られた著者による「ソマリア物」第二段である。
ソマリアは破たん国家としてアルシャハブというイスラム過激組織と、国連などの後押しを受けた治安軍との戦いをはじめ、海賊国家としても名高く、前作では、よくこんなところに出かけていくなぁ〜と著者の冒険心というか蛮勇にはほとほと感心すると同時に呆れたものだった。
ソマリアは大きく分けて3つの地域に分かれており、南部ソマリア、ブントランドといわれる比較的、土地も豊かな地域の治安は最低ではあるものの北部のソマリランド(国際的には国として承認されていない）といわれる地域は、伝統的な氏族支配と、民主主義的な統治との奇跡的ともいえる合作により、きわめて平和的な地域であるとの前作のレポートは、我々のみならずおそらく世界中の情報機関をも驚かせたのではないだろうか。
今作では、前回訪れることができなかった南部ソマリアへの軍の護衛付（とはいっても結局、銃撃戦に巻き込まれ恐怖の体験をするのだが）の取材旅行、厳格なイスラム世界であるソマリアでは絶対に無理とおもわれた一般庶民の台所へ入ってのソマリア料理作り体験といった、まさに自然の秘境はもうないと思われる現代世界における、残された秘境への旅は、間違いなく近年の冒険物の中でも出色な面白さがある。
世界で一番難しい言語といわれるソマリア語を会得し、ソマリア人と彼等レベルでジョークも言い合えるようになったという著者の「ソマリア愛」には本当に感心するが、その情熱は一体、どこから湧き出るものなのだろうか。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く」という著者の作家魂に感心するというか驚嘆が隠せない。
(15年1月発行)