新薬の罠 鳥集徹 文芸春秋
「ビッグ・ファーマ」を読んでアメリカの製薬業界がその富と力を使って米国議会、FDA、大学病院、医師会といった組織の買収、誘導に努めていることを知って衝撃を受けたが、日本でもそれ以上の不正癒着が進行していることは、多くの薬害事件の悲惨な実態、あるいは血糖値や血圧などの「基準値」を適当に決めて、多くの国民を「高血圧症」や「高脂血症」「糖尿病」の患者に仕立ててしまう「成人病検診のための正常値設定」などで多くの国民が既に経験して知ってはいることだが、本書の指摘は、そんな日本の医学界と製薬会社、そして経済界や政界、官界との癒着関係を鋭く指摘した一冊で、「子宮頸がんワクチン事件」と合わせて読むことによって、日本の医学界に対する不安はいやがうえにも増すことになった。
医薬品業界と医学界の癒着は、小は大学病院では、ボールペンから掲示板のマグネットまで製薬会社の名前入りつまり、製薬会社からの「おみやげ」であることは、病院に通ったことがある人なら誰でも目にするものだが、これらの「おみやげ」が当然、製薬会社が彼等の薬を医師たちに売ってもらいたい（患者に処方して欲しい）が為にだしていることは容易に類推できることだが－－－こんな小さなスケールの話ではない莫大な利権のために行われている癒着の数々は、あまりにすさまじく、恐怖さえ覚えるものだ。
しかし、「ビッグ・ファーマ」の指摘も大きくこの不正の関係を変えるものではなかったのと同様に、日本でも政界までもがグルになったこの巨大な不正構造（人間の命を弄ぶものだけに許しがたいものではあるが）は、本書の指摘位ではびくともしなであろう、という諦観のようなものも漂うが－－－。
（参照：「子宮頸がんワクチン事件」）
（15年5月発行）