将棋エッセイコレクション 後藤元気 筑摩書房
祖父も父も好きだった将棋だが、なぜか子供の時から手を出さなかったのはやる前から「負けた時の口惜しさ」を味わいたくない、というきわめて「消極的な負けず嫌い」というひねくれた性格の所為だ。（本来、負けるのが嫌なら、努力して強くなろうとするのが本当なのに！）
多くの先輩や友人たちからも囲碁、あるいは将棋の面白さを諄々と説かれ、さそわれたりしたことも幾度となくあるけれど、結局、この歳になるまで手をださなかったのだから、もう今更遅い。
それにしても、囲碁などは皆目、将棋にしても未だに金と銀の動かし方さえあいまいだというのだから社会人として失格であるといってもよいだろう。
そんな将棋音痴ではあるが、将棋のエッセイやら、将棋の棋士たちに関する物語や小説の類は、大好きでこの「タカさんの読書日記」にも取り上げた将棋物は数十冊には上るだろう。(「島研ノート、心の鍛え方」他）
あの小さな四角い将棋盤の上で繰り広げられる無限ともいえる広がりをもった勝負の世界の機微、そしてその勝負にかける棋士をはじめとする様々な人達の人生模様、といった世界に対する憧れが、自分が「将棋ができない」という負い目がある分だけ強い所為かもしれない。
本書には、まずタイトルからして一気に手が伸びた。まさに、一番好きな分野のエッセイ集だというのだから―――。
全部で40篇のエッセイが収録されている。執筆陣は、棋士が14人、作家で将棋ファンとして知られる山口瞳や高木彬光など、そして著者と同業の観戦記者といったところだが、カバーする年代はかなり広く、出てくるエピソードも坂田三吉や升田幸三といった伝説の将棋指しから、現代の渡辺、羽生といった棋士までをカバーしている。
それぞれのエッセイはそれほど長い物は少なく、それでいて、簡潔にそれぞれのテーマについて的確なものばかりというのは、決して多くはない字数で観戦記を書きなれた記者や、寸鉄人を刺すような一手を打ち続けている棋士たちが書き手であるからかもしれない。
(14年2月発行)