勝てる野球の統計学 鳥越則央 岩波書店
一番バッターが塁に出て、無死一塁の場面、日本のプロ野球でセオリーとされてきたのは、二番バッターにバントをさせて一死二塁という得点機会を作ることであるとされているが、映画「マネーボール」で有名になったメジャー球団の多くが採用している統計を重んじた戦略論である「セイバーメトリックス」では、1死1塁なら、2番バッターに打たせるという戦法が最善の戦法ということになっている。
この場合、最悪、併殺によって一気に2死無走者になる可能性、あるいは2塁封殺で一死一塁となってしまう可能性もあり得点チャンスがしぼんでしまう可能性もあるけれど、上手くいけば無死1，2塁、あるいは無死1，3塁になりチャンスが広がる可能性が広がるし、一般的に考えれば例え一死をとられたとしても走者が二塁にいるほうが絶対的に得点チャンスは広がると考えられてきた。
日本では長く、2番にバントをさせ着実にランナーを2塁に進める作戦は、「手堅い作戦！」などといわれてきたが（逆に強打させる作戦は「ギャンブル」ともいわれてきた）、セイバーメトリックを採用した、「マネーボール」の主人公ビリー・ビーンに言わせればこのケースでは2番に打たせるし、逆に相手チームが無死または一死一塁でバントしてきたら「サンキュー」といって迷わず一塁のアウト（2塁の封殺死を狙うのではなく）を取るべきだという。これは、無死一塁に比べて一死一塁の得点チャンスは確実に落ちるという十分な統計データに基づく作戦なのだという。
最近のメジャーでは、セイバーメトリックスやそれよりも更に進化した立体的な画像解析やレーダ測定などを駆使した「トラッキングシステム」に基づくデータを組み合わせた作戦論が盛んだが（参照：「野球X統計は最強のバッテリーである」）、本書ではこのセイバーメトリックスの入門解説とともに、冒頭にかかげた「犠打は有効な作戦といえるのか」などを日本のプロ野球の主に2013年シーズンのデータに基づいて分析している。
セイバーメトリックスの入門書としては中々便利な一冊である。
本書にも書かれているが、データを見る限り確かに「無死一塁のチャンスでのバント攻撃」は、みすみす得点機会を自ら摘んでしまっている―――という結果になっており、いままでの「野球での定石」なるものが、意外と人間の勘だとか、思い込みで形作られているのかもしれないという疑念が沸々と湧いて来た。
もっとも、野球というゲームは、統計だとかデータあるいは確率計算といったもので進められるゲームではなく、それこそ経験値だとか、雰囲気、「勘」といったものがあるからこそ面白いのだ、という意見も根強いし、その一方では、日本野球の余りに決まりきった定石通りの「無死一塁でバント」ばかりを見せられるとなんだかつまらなく感じてしまう長年の野球ファンにとってはセイバーメトリックスの作戦の方が理論的だし、魅力的に思えるし-―――、何しろ見ていて「面白い」という面もあるなど、このセイバーメトリックスを巡る論議はこれからもまだまだ続くことだろう。
折から16年度の公式戦も間もなく開幕を迎える。今年のプロ野球の楽しみを増してくれそうな一冊といえる。
(14年3月発行)