結ぶ 山本周五郎 小学館
山本周五郎生誕100年を期して編まれた「山本周五郎中短編秀作選集」全5巻の内の1冊だ。（参照：第一巻「待つ」）
本書は全5巻中の第4巻にあたるがテーマは「結ぶ」である。（2巻「惑う」、第3巻「想う」、第5巻「発つ」）
江戸の市井に生きる人々の人情を描いて時代小説と言われる分野の新しい境地を開きその分野の開拓者ともなった山本周五郎だが、その登場人物の多くは歴史的にも名のある人物ではない。彼等は、時代こそ違え、現代の庶民と同じように世間の海の中で生きそして死んでいく人々であり、は時代小説ではありながらも我々はその中に、なにか共通項を見出し共感するところがある。
第一巻の書評でもふれたように、周五郎の小説の登場人物には、根っからの悪人というものが出て来ないが、現代社会にしても実際のところ「根っからの悪人」といえるような人物はいないとまでは言わないが極めて稀であることを思えば、周五郎の小説が却ってリアルさをもって迫ってくるところがある。（極端な吝嗇だとか、意地の悪い人物が登場しても、そういう人物にならざるを得なかった、やむに已まれない事情に却って共感すら覚えてしまうところがある）
この第4巻のテーマ「結ぶ」は、ひょんな運命のいたずらから知り合った人同士が、同じ想いをもち共に生きる―――という人生の機微を捉えてほろりさせる物語ばかりで『むかしも今も』『おれの女房』『凌霄花』『かあちゃん』『並木河岸』『おさん』『ひとごろし』など12編が集められている。
同じ話であるにも関わらず何度聞いてもしんみりする落語の人情話のように、どの作品も今回読むのが何度目かであるにも関わらず読後しんみりさせられるとともに、何だか清々しい気分になるのは山本周五郎作品の特長だろうか。
(06年2月発行)