タカさんの読書日記索引に戻る
多数決を疑う 坂井豊貴 岩波新書
著者による「「決め方」の経済学」を読んで、現在、多方面で使われている物事の決め方である「多数決」には様々な問題点があることを、改めて思いだしたのは、選挙という多数決によって選ばれた議員たちが、これまた多数決に基づいて決定する様々な政策のほとんどが、国民一人一人の望むこととは随分と異なる物になっていることを感じていたからだろう。
しかし、「「決め方」の経済学」の読書評でも書いたように、「それでは、どうやって決めたらよいのか」の部分が、同書ではあまりはっきりしないところに不満を感じ、念の為と思って、同じ著者が以前に出した本書を手にとってみた。
結論からいえば、本書でも前書同様の「それでは、どういう決め方をしたらよいのか？」という部分は、相変わらず曖昧であり、端折っていえば現在の民主主義社会においては「もっともよい決め方」などというものは存在せず、決める際に何を重要視するか次第で、ベターな方法は変わってしまうということではないかとも思った。
相変わらず前書同様著者は、「多数決の結果だから、という理由だけで、異論をねじ伏せてしまう最近の政治は良くないのではないか」という個人的な主張をしたい、という思いが主にあって、その個人的な不満を、経済学という衣をまとわせることで主張したい―――という趣旨で本書を書いたように思えてはならない。
例えば、今現在、戦後70数年放置されていた憲法を改正（人によっては改悪だと主張するだろうが）しようという動きがあるが、「国会議員の2/3の発議により国民投票の過半数の賛成した場合」という憲法規定ですら必ずしも国民全体の為の決定とはいえない―――という趣旨の主張をしているが、では、2/3の発議というとてつもなくハードな条件でさえ「まだ、十分ではない」あるいは「国民投票の過半数の賛成でさえ不十分だ」というのなら、要するに手っ取り早く「憲法は不磨の大典として未来永劫改正するな」と言っているのと何ら変わりなく、それこそ「民主主義的な決め方」の正反対にある意見だといえるのではないだろうか。
この手の中途半端さが「経済学」に対する世の中がもつ「胡散臭さ」の原因なのではないかとも思うのだが―――。
チャーチルが民主主義についていった「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」同様に、すべての条件を比較するならば、「多数決は、最悪の決め方である。様々な他の決め方を除けばだが」ということで我々は我慢していくしかないのだと思う。
（15年4月発行）